駅から「動く歩道」でランドマークプラザに着くと、そこは2階である。1階では
ない。
「2階から5階まで、一通り見ていきましょ」
荷物持ちの夫、エルンスト(仮名)に向かって微笑むアンジェリーク。エルンストは
「ご自由に」という顔でうなづく。
まず、2階。目を付けていた店の一つ、「ロイス・クレヨン」がある。そして、
なんとここは、既に開店していた。どうやら、10時に開くテナントもあったらしい。
店ごとに開店時間が違うとは、なかなかあなどれない。(何が?)
次に、3階へ。ここにはもう一つのお目当て、「ローラ・アシュレイ」がある。
だが、そこで目にした物は、不吉な行列だった。
そして、4階。ここで、11時の時報が鳴った。テナントが軒並み開店する。その時、
アンジェリークは、とある店に吸い寄せられるように歩き出したのである。あわてて
後を追うエルンスト。
「持ちましょうか?」というエルンストの申し出を、丁重にお断りする
アンジェリーク。
ここで、軽くインターバルが入る。福袋の他に、お目当ての商品はもう一つあった。
「タロットカード 小アルカナ入り78枚フルセット 500円均一」である。
昼食は、はりこんで、一人3000円のステーキランチである。こういう所で
「金に糸目をつけない」生活をしているから、この二人、いつまで経っても貧乏
なのである。
さて、レストランでは、「お年賀」と称して小皿を1枚ゲット。小皿も、5枚
セットだと結構邪魔になるものだが、1枚だと色々使えて、割と嬉しかったりする。
すっかり上機嫌のアンジェリーク、ふと、あることを思い出す。
そして、いよいよ「クイーンズスクエア」へ。いきなりアンティークショップが
あったりして、少々、というより、かなり、異質な世界に迷い込んでしまった
気がする二人である。一応、インテリアの店なども覗くが、こんなカラフルで
かわいいファブリックやらオブジェが似合うような部屋には住んでいない。
そして、ランドマークプラザを後にして、横浜駅へと向かう。ここで
アンジェリークは一つの提案をした。
そして、横浜駅。無事ロッカーに荷物を納めた二人は、身も心も軽く、
「横浜そごう」へ。朝は混んでいただろうが、もう午後にもなると、待ち行列なしで
福袋も買える。ただし、数量限定の福袋は、あらかた売り切れだったが。
「エルンストさん、やっぱり、荷物、置いてきて正解だったでしょう」
余談であるが、「横浜そごう」の福袋は、結局、8.5kgあったらしい。
残り少なかったが、福袋も残っている。アンジェリークは一つ一つ、注意深く
持ってみる。セーターやスカートは欲しいが、コートやジャケットは足りている。
重い袋には、そういう重量級の商品が入っている可能性が高い。だから、できるだけ
軽い物がいいというわけだ。福袋経験値が上がるにつれ、こういう技も身について
くる。もっとも、この店の取り扱い商品からすると、コートやジャケットが入って
いる可能性というのは、もともとほとんどなかったようだが。
こうして、一つめの福袋を無事ゲット。内容はこちら。
恐る恐る最後尾に来てみれば、一枚の立て看板。
「ローラアシュレイ福袋は完売しました」
甘かった。ローラ・アシュレイと言えば、このファッション音痴なアンジェリーク
ですら知っている有名ブランドである。その福袋が、そんなにいつまでも残っている
はずがない。とはいえ、開店前に既に売り切れとは、恐るべし。
がっかりしながらも、とりあえず一つはゲットした満足感があるので、気を
取り直し、先へと進むアンジェリークであった。
その視線の先には「田崎真珠」があった。女の子なら一度は買いたい田崎の真珠。
普段なら絶対買わないが、福袋なら1万円からある。
「ま、正月だし」
と、なんだかよく分からない理由をつけて、一番安い1万円の福袋をゲット。
内容はこちら。
「大丈夫ですぅ。これ、軽いから」
「ああ、そうですね。パールですし」
「…エルンストさん、パールとは限りませんよ。見本で出てたの、パールじゃ
なかったもの」
「でも、田崎真珠でしょう? だったら、パールでしょう」
「だけど、真珠以外も扱ってるし…」
「でも、田崎真珠でしょう?」
というような、永遠に噛み合わない会話をしつつ、二人は5階へのエレベータへ。
ふと足元を見れば、「アート宝飾」の店頭に、福袋を積んだワゴンが。
アンジェリークの足が止まる。
「どうしました?」
「え? いえ、あの、その」
エルンスト、不敵な笑みを浮かべる。
「あれを買いたいんですね?」
「ええと…。そりゃ、まあ、欲しいですけど。でも、アクセサリーのは今買った
ばかりだし…」
「二つ買ってはいけないのですか?」
「いや、そんなことはないですけど」
「だったら、買いましょう」
「でも、もったいないですよ…」
「どうして?」
「だって、もう、2万円も使っちゃったんですよ」
「アンジェリーク、いいですか。お金は使うためにあるのです。分かりますね?」
「それはそうですけど。でも、無駄遣いは…」
「分かればいいんです、分かれば。では、買いに行きましょう」
「…エルンストさん、そんなに私に買い物をさせたいんですか?」
「その通りです」
「なんで?」
「人がお金を使っているのを見ていると、自分が使っているような気持ちになって、
気分がすっきりするのです。ですから、あなたも、買い物をしたら必ず私に報告を
してください。そうでないと、私がいい気分になれませんから」
…さすが、天才科学者の発想は、凡人とは違う。それはともかく、早くも三つめを
ゲット。内容はこちら。
ここでも、エルンストの「金は天下の回り物」攻撃が炸裂。結局、2セットも
買ってしまったアンジェリーク。大アルカナのみのサブセット版を既に2セット
持っているというのに、こんなに買ってどうする気なのか。他人事ながら心配である。
(笑)
さらに、洋書が充実していることで有名な書店へ。「コンタクト」の原作本を
買おうかどうしようか悩みつつも、「別に、今日でなくても買える」という理由に
より、何も買わずに退散。ここで12時。昼食の時間である。
さて、レストランの窓から外を見ていたアンジェリーク、ふと、隣のビルに
目を止める。どうやら、新しくできた「クイーンズスクエア」のようだ。
予定外ではあるが、せっかくここまで来た以上、一応見るだけは見ておこう、
と相談がまとまり、さらに、まだ時間があるから、という理由で、隣駅の横浜駅にも
行くことに決定。
「ここって、シマミネが入ってませんでしたっけ?」
「さあ? あるのなら、お付き合いしますよ」
「シマミネ」とは、この近辺ではそこそこ有名な、宝石のチェーン店である。
ただしここには、「シマミネ」ではなく、その系列でもっと安い価格帯の商品を
専門に扱っている「クリスティ」が入っていた。ここで売っていたのは、福袋ではなく
「お楽しみ箱」。なんと、1個1000円である。少々お金を使い過ぎた、と反省
していたアンジェリークだが、この価格だと、あっさりと心が揺らぐ。こうして、
四つめをゲット。内容はこちら。
はずしたかな?と思いつつ、とある一角に足を踏み入れたアンジェリークが
感嘆の声を上げる。
「うわあっ、いい匂い」
こうして、自然と、二人の足は匂いの源へと向かう。そこは、天然素材の香料を
扱う店であった。早い話が、ポプリとか石鹸とか、そういうものを売っている
所である。
店の真ん中辺りのテーブルには、お約束の福袋がアンジェリークを誘う。
「やっぱり、雑貨もデフォルトよね」
などとわけの分からないことをつぶやきつつ、五つめをゲット。
内容はこちら。
「エルンストさん。駅に着いたら、コインロッカーに荷物を預けましょう。こんな
大荷物持ってたら、買い物なんかできませんよ」
エルンスト、何か言いかける。あわてて付け足すアンジェリーク。
「あ、あの、もちろん、エルンストさんが、ロッカー代もったいないとか、この
程度の荷物なら持てるとか、そう思うんだったら、無理にとは言いませんけど」
「…アンジェリーク、また私が反対意見を述べると思っているのですね?」
「ええ」(だって、いつもなんか文句言うんだもん…)
「私だって、たまには他人の意見に耳を貸しますよ。今、すぐに同意
しなかったのは、中央改札から出た場合、どこにロッカーがあるか分からないから
だったのですよ。それだけです」
「だったら…」
「いや、ですから、反対しているわけではありません」
「じゃあ、ロッカーがあったら、入れませんか? あっても、埋まってるかも
しれませんし」
「ええ、それで結構です」
特設会場に着いたアンジェリーク。福袋には、5千円のと1万円のとがある。
「エルンストさん、どちらにします?」
「1万円でしょう、やっぱり」
聞くだけヤボであった。
それにしても、当然ながら、中身が何なのかさっぱり分からない。まだ5千円のは
白いビニール袋なので、何となく形や色が透けて見えたりもする。しかし、1万円
コースは、黒いスポーツバッグのような袋に入っている。皆目見当がつかない。
アンジェリークは、手近な袋を触ってみた。
「…ねえ、エルンストさん。これ、箱が入ってるんですけど…」
「箱?」
エルンストも、同じ箱を触る。
「これ、箱が二つ入っていますね」
「え? …あ、ほんとだ」
「これにしましょう」
「…どうして?」
「普通のには、箱は一つしか入っていません。これは二つ入っています」
「…二つ入っていると、いいことがあるんですか?」
その時、既に、エルンストは問題の袋を持って、会場出口へと向かっていた。
しかし、彼は、途中で足を止める。
「どうしたんですか?」
「…失敗だったかもしれません」
「失敗って…。自分で選んだんじゃないですかあ」
「重いのです。それに、箱が入っていると、持ちづらいのですよ」
「…そういうことは、先に気づいてください」
しかし、今さら取り替えるのも恥ずかしいので、そのまま精算。
内容はこちら。
「…他のを持っていたら、5千円のにしてましたよ」
と、まあ、こんな調子であったため、結局、横浜駅近辺ではこれ一つだけ。
その後、喫茶店で休憩。
「それ、開けて見たいですよねえ。何がそんなに重いのか」
「いや…。開けて見て、しょうもない物が入ってたら、捨てて帰りたくなるから
やめておきましょう」
それは一理ある。
「ここからタクシーで帰ってもいいですよ」
「それで、また、1万円くらいかかりますね」
「…やめときます」
「それが賢明ですよ」
こうして、二人は、正しく公共交通機関を利用して、家にたどりついたわけである。