アンジェリークは鏡に向かい、髪を梳いていた。さらさらのボブは、ちょっとだけ彼女の自慢なのだ。今日は土の曜日。王立研究院に行く日だ。
ブラシを持つ手を止め、アンジェリークはため息をついた。
「もう、今さら無理よねえ…。」
ライバルのレイチェルは、天才を自認するだけあって、育成も学習も、全く無駄がなかった。試験は終盤に差し掛かかり、もはやアンジェリークに勝ち目はなかった。
そう、これというのも、リュミエール様がいけないんだ。二週続けて土の曜日に来るなんて。一度目こそお断りしたけれど、二度目は、前に断った負い目もあって、つい誘いに乗ってしまって…。そのおかげで安定度が下がり、レイチェルに追いつこうと必死になって作った惑星が壊れてしまった。あれがケチのつき始め。あれ以来、何をやってもレイチェルには勝てないんだ…。
逆恨みとは分かっていても、愚痴の一つもこぼしたくなる。鏡を見れば、泣き出しそうな自分の顔。
「…だめだめ。最後まであきらめちゃ。ここであきらめたら、アルフォンシアがかわいそうだわ。それに…。」
アンジェリークの顔に、自然と笑みが浮かんだ。
「研究院のエルンストさん、ちょっと素敵なのよね。」
少し気分も晴れたところで、アンジェリークは立ち上がった。申し訳程度の手荷物をバスケットに詰めて、ドアのノブに手をかける。その時、背中に寒気が走った。
「…なんだか、すごくイヤな予感が…。」
チャイムの音。
「あっちゃー。」
誰が見ているわけでもないのに、アンジェリークは大げさに肩をすくめた。守護聖様も、先生も、少しは気を使って欲しいものだわ…。
そろそろとドアを開ければ、相変わらず不機嫌そうな顔をしたゼフェルが、チャイムに指をかけている。その隣には、不安げな顔のマルセル。
「おい、いい天気だし、遊びに来てやったぜ。」
「ねえ、一緒に外に行かない?」
二人の声が同時に響く。そして、お互いを冷たい視線で探り合う気配。
アンジェリークは身を堅くして、うつむいたまま言った。
「ごめんなさい、今日は用事があるんです。」
「なんだと、てめー。それで気ぃ使ってるつもりか!? ふざけんなよ!」
「そんな…。なんか、そういうのって、かえって傷ついちゃうよ…。」
口々に文句を言って、二人はそれぞれ反対方向へ去っていった。
「だって…。ほんとうなんだもん。もう絶対、土の曜日にアルフォンシアに会いに行くの、さぼったりしないって決めたんだもん。」
アンジェリークは深々と息をつき、天井を仰ぎ見た。
「神様、昨日のうちにセーブしてくれてありがとう。」
(完)