「おや…、リュミエールじゃないですか。どうしたんですか? そんな大きなため息なんかついて…。」
「あ…、ルヴァ様。こんにちは…。」
ここは占いの館。リュミエールが占いの結果を手に、暗い表情で立っている。ルヴァの方はいたって元気だ。
「うーん…、なんだか元気がないみたいですねえ。悩み事でもあるんですか?」
リュミエールは、もう一度ため息をついた。
「…どうして、クラヴィス様はジュリアス様とうまくやって下さらないんでしょうねえ…。」
ルヴァが笑う。
「ああ、あの二人のことなら気にしないことです。あなたが守護聖になるずっと前から、あの二人はああなんですから。」
「私がここに来る前から…。そうですね、ルヴァ様は私なんかよりずっと、クラヴィス様のことを良く知っているんですよね…。」
リュミエールはそう言うと、また、悲しそうにため息をついた。
「ええ。あの二人の仲が悪いのは、ずっと昔かららしいですよ。私がここに来た時にはもう、あんなでしたから。」
ルヴァは相変わらず、にこにこしている。
「ああ…、クラヴィス様も、もう少し他の守護聖に心を開いて下されば…。」
「でも昔に比べれば、あれでも明るくなったんですよ。そりゃ、私が最初に会った時なんか、真っ暗で、もう、闇そのものって感じでしたからねえ。」
「はあ…、そうなんですか…。」
リュミエールは、「あれでも」というくだりに少し引っかかる物を感じたが、それは表に出さなかった。
「おやあ…。アンジェリークですねえ…。」
ルヴァは、館に入って来たアンジェリークの姿に目を止めた。
「アンジェリーク…ですか?」
リュミエールは複雑な気持ちでその名を口にした。ジュリアスとクラヴィスの不仲には、アンジェリークにもその責任の一端がある。理由は分からないが、クラヴィスはひどくアンジェリークを気に入ったようで、何かと口実を見つけてはアンジェリークに会いに行く。それはそれで構わないのだが、どうもそれがジュリアスの癪に触るらしい。クラヴィスもクラヴィスである。この間の土の曜日など、アンジェリークがエリューシオンの視察に行く日だと知っていながら、森の泉に連れ出したのだ。それがまた悪いことに、ロザリアと泉を訪れていたジュリアスと鉢合わせしたのだ。その夜のジュリアスの荒れようと言ったら…。
それにしても、どうせならクラヴィスも「お互い様」くらいのことを言えば良かったのだ。それを、ああいう性格なものだから、またジュリアスの神経を逆なでするようなことを言ってのけたのだ。それ以来、二人は会っても口をきこうとすらしない。
リュミエールはためらいながら、手にした紙をルヴァに向けて広げて見せた。
「実は…、これなんですが…。」
「あ…、これは、クラヴィスの占いですね。」
「ええ、そうなんですが…。これを…。」
ルヴァはその指先にある物を見て、大笑いした。
「えっ…、オスカーとの相性と親密度が、両方0…。ゼロ…ですかあ? あはは…、いや、失礼…。しかし…、そんなことがあるんですねえ…。」
ルヴァは涙を流して喜んでいる。
「ルヴァ様、笑い事じゃありませんよ…。」
「確かに…。オスカーはジュリアスの腹心みたいなものですからねえ。オスカーとの関係がこれじゃあ、ジュリアスとは…。いや、でも、そうなんですかあ…。ははは…、これはおかしい…。うーん、こんなに笑ったのは久しぶりですねえ…。」
リュミエールは、またまた深々とため息をついた。
「こんにちは! ルヴァ様、リュミエール様。」
自分の占いが終わったのか、アンジェリークがやって来た。
「ルヴァ様…、どうなさったのですか? そんなに大笑いして…。」
「あ、アンジェリーク…。なんでもないんですよ。ちょっとリュミエールに面白い話を聞かせてもらったものですからね。」
リュミエールは気を取り直すように、アンジェリークに話しかけた。
「ご機嫌よう、アンジェリーク。何かご用ですか?」
「はい。お願いがあるんです。」
「私に、ですか? それともルヴァ様に?」
「リュミエール様にお願いなんです。」
リュミエールは、いつもの笑顔をアンジェリークに向けた。
「ここでのお願いは、人間関係についてですが…。」
「仲良くなりたいんです。」
「そうですか。それで、あなたは、どなたと仲良くなりたいんですか?」
「リュミエール様です。」
「…私…ですか?」
「はい。お願いします。」
そんなことをしたら、クラヴィスが悲しむ。そうは思ったが、頼まれ事を断るなど、優しさを司る水の守護聖リュミエールにできるわけがなかった。
「…あなたのお願いは、覚えておきますよ。」
「ありがとうございます! リュミエール様。」
そう言うと、アンジェリークはくるりと背を向けて、館から出て行った。ルヴァが羨ましそうに言う。
「いいですねえ。私なんか、いつもゼフェルとの間を取り持つばかりで、私と仲良くしたい、なんて言ってくれないんですよ、アンジェリークは。」
それはそうだ。守護聖の務めとして、アンジェリークとロザリアの占いは定期的に見せてもらっているが、元々ルヴァとアンジェリークの相性は90以上ある。これ以上相性を良くしてどうしようと言うのだ。そうは思っても、優しいリュミエールのこと、口には出さなかった。
「ん…? リュミエール、顔色が悪いですよ…。もう戻って、休んだ方が良さそうですねえ。」
「え…? ええ…、そうですね。少し疲れました…。それでは、ご機嫌よう、ルヴァ様。」
「お大事に、リュミエール。」
聖殿の自室に戻る途中、クラヴィスの執務室の前を通ると、中からアンジェリークの声が聞こえた。
「人の気も知らないで…。」
リュミエールはそう思いながら、だが、決してそんなことは口には出せないだろうと考えつつ、自分の執務室に入って鍵をかけたのだった。
(完)