女王試験は終わった。宇宙は惑星に満たされ、命を迎える準備が整った。その宇宙を導くべき女王は…アンジェリーク。
そして、女王即位の儀式が厳かに執り行われる。守護聖、そして試験に協力した人々の前を、少し緊張した面もちで、アンジェリークは歩を進めていた。
女王の声が響く。
「女王となる資格を得た者よ。その宣言により、即位はなされます。」
「…ごめんなさい、陛下。わたし…女王にはなりません。」
「!! 何ですって!?」
謁見の間がにわかに騒がしくなる。そんなことがあり得るのか? 女王補佐官も、呆気にとられた顔で、アンジェリークを見つめていた。
だが、女王は優しく微笑んだ。
「そう…。そうですね。あなたにはそういう選択もあるのだわ。」
「ちょっと待ってよ、アンジェリーク!」
駆け寄る人影は、この試験の間、ライバルとして競い合ったレイチェルだった。
「アナタ…、ワタシに勝って女王になれるっていうのに、このまま行っちゃうつもり?」
「…うん、ごめんね。でも、わたし、やりたいことがあるから…。女王にはなりたくなかったの、最初から。ただ、アルフォンシアのために頑張ってきただけ。…陛下、わたしの代わりに、レイチェルを女王にしてください。」
「あなたの気持ちは分かるわ。でもね、それはできないこと。この試験で良い成績を治めた方が女王になると決まっていたのだから。…でも、心配は要らないのよ。新しい宇宙は、ここと違って、自分の意志を持っている。」
「アルフォンシア…。」
「そう。だから、女王がいなくても、発展することはできるはずよ。ただ、その速度は遅くなるでしょうけれど。」
「アンジェリーク。ワタシ、あの宇宙の研究チームに入ることにしたんだ。だって、まだルーティスを感じるもの。消えちゃったなんて信じない!」
「レイチェル…。それなら、わたしの分も、アルフォンシアのこと…。」
「なーに言ってんのよ。図々しいんだから。…でも、いいよ。どっちにしろ、ワタシ、あの宇宙から目を離せなくなりそうだし。アナタも元気でね。」
「うん、ありがとう。」
その数時間後…。
「ん? エルンストか? どうしたんだ、こんな所で?」
「あ…。ヴィクトールさんこそ、こんな所に何か用ですか?」
「え? あ、うん、…まあ、その、…なんだ。」
「…あっれー? お二人さん、何しとんねん?」
「…? どこかでお会いしましたか?」
「なんや、研究員さん、つれないなー。俺や。日の曜日の庭園と言えば…。」
「あ、お前、あのいかがわしげな商人か?」
「ちょっとおいちゃん、いかがわしげな、つーのはどういう意味やねん。」
「…これは失礼。私は日の曜日に庭園に行くという趣味はありませんので。」
「あ、さよか? おかしいなー。俺は研究員さんのこと知っとんのになー。まあええか。」
「それはそれとして、だ。なんでお前がこんな所に?」
「それはこちらのセリフですがな。なんで二人揃って、女子寮なんか来とんのや?」
「…。」
「…。」
「…まさか思うけど、アンジェリークのとこ行くんとちゃうんやろな?」
「あ…。」
「…!」
「…なんや、図星か? そら残念やったなー。なんであの子が女王の座を蹴ったのか、あんたらには分からんやろなー。」
「どういう意味だ?」
「あんたらには悪いけど、俺はあの子と、将来を誓いあったんや。」
「何ですって!?」
「ちょっと、あんた、耳元で叫ばんといてーな。…あー、耳聞こえんようになってもーた。どないしてくれんねん?」
「あなたが彼女と…? 嘘でしょう?」
「…なんや、その目は。こんなとこで嘘ついてもしゃーないやん。ほんともほんと。」
「それでは、私に言ったことは…。」
「ちょっと待て、二人とも。お前たち、彼女と何があったんだ?」
「ん? 俺、あの子に、好きや、ゆーたんや。ドキドキやったけど、うなずいてくれて…。ああ、今でも目に浮かぶわ。かわいかったなあ。」
「そんな…。彼女が、あなたにも、私に言ったのと同じことを…?」
「なんやって!?」
「おい…。何かの間違いじゃないのか?」
「どういう意味や?」
「彼女は…、昨日、俺の所に…。」
「あなたの所に?」
「ああ。」
「あんたのとこで、何したんや?」
「まあ、その…。俺は断ったんだ。当たり前だろう。彼女は女王になるべき人なんだから。だが、自らその座を降りたなら、話は別だ。」
「どうなってるんですか…。それじゃ、私との約束は…。」
「なんやって? 嘘ついたらあかんで。」
「嘘なんかついてない! 失礼な奴だな。…エルンスト、どこへ行くんだ?」
「あー! 抜け駆けや!」
「…ふっ…。分かってましたよ…。私なんか…。」
「…おい。その言い方はなんだ。言いたいことがあるならはっきり言え。」
「いえ…、私は、自分がそれほど魅力のある人間だとは思っていませんでしたから。」
「…あんたが自分でそう言うなら、しゃーないな。」
「いや、とりあえず待て。」
「おいちゃん、せっかくライバルが一人減るちゅーに。何言うとんねん。」
「だが、このままじゃ後々うなされそうだ。はっきりと決着をつけようじゃないか。」
「…しかし、どうするんですか?」
「うーん…。オスカー様が相手なら、決闘でも申し込むところだが…。」
「冗談きついなー。俺らには勝ち目ないやん。」
「私も、ジュリアス様相手なら、チェスで勝負をつけるところですが…。」
「好きなこと言うとんなー。そういう問題とちゃうねん。ええか、あの子が幸せになれる方法が一番なんや。分かっとんのか?」
「…たまにはいいことを言うな。」
「たまには、は余計や。」
「彼女の幸せ…ですか。」
「そうや。俺は自信あるねん。」
「…正直言って、私は自信ありません。ですが、あなたよりは幸せにできると思いますよ。」
「失敬やなー。」
「うむ…。将来性ならエルンストだろうが…。」
「ちょい待ちいな。こう見えても俺はなー…。」
「こう見えても、何だ?」
「…いや、言わんでおこ。大体やな、金や名誉じゃ幸せは計れんのや。研究員さん、あんた、それ分かっとるんか?」
「分かってます。ええ、それを教えてくれたのが…、アンジェリークですから。」
「言うてくれるなー。でもな、こん中やったら、俺が一番幸せにできる。絶対や。」
「どこからその自信が出てくるのか不思議だな。…俺はそこまでの自信はない。だが、お前に預けるくらいなら、俺が彼女を幸せにする!」
…一方、その頃…。
「あ! レイチェル。」
「はーい、アンジェリーク。お別れの挨拶に来てあげたよっ。…なんだ、結構さばさばしてんね。寂しくて泣いてるかと思って来たのに。」
「…そりゃみんなと別れるのは寂しいよ。でも、わたし、帰らなきゃ。」
「そっか…。そうだよね。女王になったら、もう二度と、パパやママには会えないもんね。ワタシは覚悟してたけど。」
「わたし…。ここに呼ばれた時、絶対帰るって決めてたから。ごめん、黙ってて。」
「ううん、いいよ。それより、そう思ってたのに、本気で戦ってくれて嬉しい。手抜きされたら、ワタシすごく傷ついたと思うもん。」
「じゃ、アルフォンシアにお礼を言ってね。」
「そうだね。…それよりさあ、アンジェ、アナタ何かやらかしたんじゃない?」
「…何を?」
「今、寮の前、大騒ぎだよ。」
「何かあったの?」
「それを聞いてんじゃない。ヴィクトール様と、エルンストさんと、商人さん。すごい顔で喧嘩してんの。」
「…それ、ほんと?」
「見に行く?」
「…レイチェル、大事な話があるんだけど、聞いてくれる?」
「何よ、改まっちゃって…。」
そして、数十分…。
「…あっきれたーっ! 何てことすんのよ、あんたってば。」
「だって…。どうせここには残らないつもりだったし…。」
「エルンストさんと商人さんのことはともかく、ヴィクトール様が、うん、って言ってくれてたら、どうするつもりだったのよ。」
「でも、ヴィクトール様なら絶対断ると思ったから…。」
「アンジェリークっ! どうしてそういういい加減なことするのよ! 少しは反省しなさいよねっ。」
「ごめんなさいっ!」
「あのねえ、ワタシに謝ってどうすんのよ。あの人たちに謝るべきでしょっ。」
「そんな…。今さら顔出せないよ…。」
「自業自得。知ーらない。」
「そんなあ、レイチェル。友達でしょ。なんとかして。」
「どうにもならないわよ。自分でなんとかしなさいよ。」
「どうしよう…。」
「正直に言うしかないんじゃない? わたしには故郷に好きな人がいます。…って。」
「…できないよお。きっと、血の雨が降るんだわ。ああ、わたしのために…。」
「自分に酔ってる場合じゃないでしょ。分かってんの?」
「レイチェルー。代わりに言ってきてー。」
「バカ言わないでっ!」
…二人の物語はここから始まります。そして終わることはありません…
(完)